2021.3.10 2021.3.12
ベンチャー企業のCFOに向いている人材と求められる能力とは
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ベンチャー企業のCFO、と言うとどのようなイメージをお持ちでしょうか?
華やかなキラキラとしたイケている会社のCEOの右腕として資金面を全て管理していて、投資などをダイナミックに決めていく…そんなイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。そのイメージは間違っていないと思います。ただ、そのような業務はCFOの業務の中でもごく一部です。
今回はベンチャー企業のCFOに向いている人材と求められる能力について、FOR CAST 合同会社 代表社員 小井口 尚希さんにお聞きしました。
筆者は自らの会社でエンジェル投資もしており、その投資先の取締役CFSO(Chief Financial & Strategy Officer)を務めており、そこでの経験も踏まえ、CFOの業務は実際にどのようなものがあるんだろう、どのような人材が向いているのだろう、という事についてご説明したいと思います。
目次
CFOの業務とは
CFOはChief Financial Officerの略称で最高財務責任者と呼ばれることが多いです。
一般的にCFOはCEOの右腕となり、経営を支える人物の事を言います。
ベンチャー企業のCFOの場合、企業内の人員も少ないケースが多く、Financeだけではなく様々な業務を担当することがあります。
例えば会社の全社戦略を考えたり、組織構成を考えたり、という大きな事から、人材採用の面接を行ったり、社内の規程やルールを作ったり、時には経理作業も行い、顧問税理士と打ち合わせを行ったりと、業務が多岐に渡ることも多いのではないでしょうか。
このように、ベンチャー企業のCFOはCEOが対社外の業務に専念できるよう、社内の事はなんでも行うという事が基本にあります。
ただし、CFOに期待される最も大きな業務は資金調達です。
どのようなタイミングで資金調達をするのか、間接金融で資金を調達するのか直接金融で調達するのか、そのために必要なことは何か、直接金融での調達であれば資本政策はどうするのか、将来会社が成長する戦略はどのようなものであり、それをきちんと事業計画と言う形にすることができるのか等です。
調達する際には相手先と交渉も行い、調達後は資金の提供先と定期的/臨時に会社の状況について情報交換を行う、という業務も期待されています。
資金調達時におけるCFOの働き
以下ではCFOに最も期待される資金調達と言う業務について見ていきたいと思います。
銀行借入れ(間接金融)で資金調達を行う場合、借りた資金を返済できる事業計画(返済計画)を用意し、先ずはメガバンクや地元の金融機関に相談に行くケースが多いです。
ただし、金融機関の方は「貸したお金は本当に返ってくるのかな?返済計画に無理はないかな?」という目線で審査を行います。
創業したてのベンチャー企業や、これから開発やサービス構築を行っていくようなステージのベンチャー企業は過去の実績がほぼなく、過去実績から返済可能額を審査する金融機関から資金を借入れるのは非常に困難であると言えます。
ただし金融機関の中でも銀行ではなく、日本政策金融公庫のような政府系金融機関では少し別の手法も考えられます。
例えば日本政策金融公庫の場合、創業時に支援する融資制度がありますので、そちらの方がベンチャー企業は資金を借りやすいと言えるでしょう。
このように過去の実績がほぼない等のベンチャー企業は、間接金融よりも直接金融で資金調達を検討するケースが多いです。
ベンチャー企業への直接金融を行っているのは、ベンチャーキャピタル(VC)やコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)になります。
VCやCVCは株式やそれに準じた手法で投資をします。
その為、ベンチャー企業の事業計画も金融機関向けのように「貸したお金が返ってくるかな」という目線での審査にはなりません。
「このベンチャー企業に投資したお金で将来どれくらいのリターンを得られるのかな。そのリターンを得るためのリスクはどれくらいなのかな」という目線で審査をしてきます。
直接金融で資金調達をする場合と間接金融で資金調達をする場合、ベンチャー企業が作成する事業計画に大きな差が出ます。
次からは、ベンチャー企業が直接金融(VCやCVCを相手にした資金調達)を成功させるためのステップとその内容について細かく説明をしていきます。
直接金融で資金調達を成功させるまでにCFOが実施すべきこと
直接金融での資金調達は下記のような流れで行います。
- 事業計画の作成
- 資本政策の作成
- 発行する株式の種類の決定(タームシートの決定)
- 投資家のネットワークづくり
- デューディリジェンス対応
- 投資契約/株主間契約の締結
- 契約手続/入金確認
それでは、1つずつ見ていきましょう。
事業計画の作成
先ずは事業計画を作りましょう。
少なくとも初年度は月次ベース、作成する期間は、投資家が株式をEXITできるようになる期までです。
計画初年度を月次ベースで作成する理由は、投資を受けた後すぐに、投資家側のチェックを毎月受けることになるからです。
今月は計画に対して実績がどれくらい乖離しているのか、年度計画に対し実績はどれくらい進捗しているのか、その理由は何か、という点について会社側に説明する義務が課されます。
その義務を果たすため、月次での計画が必要になってきます。
また、会社が作成した月次の計画をもとに、投資家側はいつ資金がショートするのか、それを回避するためには、会社として今いくら調達する必要があるのか、の判断にも使われます。
一方、投資家が株式をEXITできるようになる期までの計画を作成する理由ですが、直接金融で資金調達をする際、投資家に投資のEXIT方法とそのタイミングを約束する必要があります。
EXIT方法はM&Aも想定されますが不確定要素が多いので、自助努力で達成できるIPOでのEXITを提案するケースが多いです。
IPOの場合、上場する期(この期を申請期と呼びます)の計画利益をもとに上場時の株価が算定されます。
そして上場時に想定される株価は投資家側の期待投資リターンに直結するので、投資家が株式をEXITできるようになる期までの計画を作成する必要があります。
資本政策の作成
資本政策とは、会社設立から現在までの資本の異動を記載し、その上で現在の株主構成をベースにし、どのタイミングで、どのような種類の株式で、どれくらいの金額を調達していくのか、という事を記したものになります。
これは事業計画の期間とリンクすることが望ましいです。
どのタイミングで調達するのか、ということについては、事業計画において資金がショートするないしは多額の資金を利用するタイミングに合わせます。
どのような種類の株式で、という点については下記の「発行する株式の種類の決定(タームシートの決定)」でご説明します。
そして、どれくらいの金額か、という事については、資金調達後次の調達までに必要と算定される金額とします。
もちろんこの金額には、会社として事業に投資する資金の他、運転資金についても考慮します。
そして最も大事なのが、資金調達時のバリュエーションです。
つまり、株価をいくらにするという事です。
投資家に株価を提示する際、なぜその株価なのか、という事を必ず聞かれます。
投資家側としては低い株価で投資をすることを望んでいるので、自社の株価についての根拠をしっかり持って交渉する必要があります。
基本的にはIPO時以外はDCF法で算定しますが、その際利用する割引率等の係数についても、投資家側が納得するものを利用しましょう。
経営陣の株式シェアを高くしておきたいから、高い株価を提示する、と言っても投資家側は納得しませんので、それなりの根拠を事前に用意しておく必要もあります。
経営陣の株式保有率も確認し、資本政策を完成させましょう。
発行する株式の種類の決定(タームシートの決定)
株式の種類ですが、普通株式以外、種類株式の発行を求められることもあります。
種類株式は会社法でその発行が認められており、会社法108条1項にはその例示が記載されております。
例示と言う言葉を使ったのは、108条1項に記載されている内容以外の権利を付与しても良いからです。
下記に108条1項に記載されている内容、及び投資家側にとっての重要度、その理由についてまとめました。CFOとしては投資家側との交渉においては、少なくとも下記内容については一通り全て理解しておく必要があります。
108条1項 | 内容 | 重要度 | 理由 |
---|---|---|---|
1号 | 剰余金の配当(優先配当が可能) | △ | 投資家側はあまり配当を重視しない 配当するより事業の成長に資金をまわしてほしい |
2号 | 残余財産の分配(優先分配が可能) | ◎ | M&A時のダウンサイドリスクを回避したいため |
3号 | 議決権の制限 | 〇 | ガバナンス強化のため、原則議決権を保有する |
4号 | 譲渡制限 | △ | 通常定款で譲渡制限が規定されていることが多いのであまり重要視しない |
5号 | 取得請求権付(株主が請求可) | ◎ | EXIT方法多様化の為に普通株式を対価、金銭を対価等を用いる |
6号 | 取得条項付き(会社が請求可) | 〇 | 上場時のみ権利行使できるようにする |
7号 | 全部取得条項付き | △ | ほぼ見ない(M&Aや少数株主排除時に利用) |
8号 | 拒否権付き | 〇 | 別途、株主間契約等でも対応可能 |
9号 | 役員選任権付き | 〇 | 別途、株主間契約等でも対応可能 |
◎は投資家側が重要視する項目、〇は投資家側にとって重要ではあるものの企業ステージや交渉によって外れる可能性もある項目、△は投資家側が重要視しない項目になります。
このように種類株式に付与する権利を決め、それを一覧にし、タームシートを作成します。
投資家のネットワークづくり
上記と並行して、投資家とのネットワークを作っていくのも、CFOの業務です。
投資家側はCEOへアプローチをするケースが多いので、CEOから投資家をつないでもらう事もあります。
また、ベンチャー企業が中心となるイベントに参加し、そのイベントに参加している投資家とネットワークを作ることもCFOの仕事です。
そして、投資家から他の投資家を紹介してもらい、ネットワークを作ることもあります。
このように、ネットワークは一気に拡散するものではなく地道に作っていくことが多いので、根気が必要になります。
デューディリジェンス対応
事業計画、資本政策、発行する株式のタームシートが完成し、投資家へ増資検討の依頼を行うと、投資家側によるデューディリジェンス(DD)が実施されます。
このDDでは、事業/ビジネスモデルの優位性や事業計画の精度等の確認の他、過去実績、IPOまでの資本政策、経営陣の略歴等もチェックされます。
CFOとしては投資家別にその対応を行う事の他、重要な業務として、着金までのスケジュール管理が求められます。
投資家のDDは各社進め方がバラバラです。
投資委員会が1回で投資決定まで進む投資家もあれば、2回必要な投資家、投資委員会までに側面調査(投資家による、ベンチャー企業の製品/サービス利用者へのヒアリング)を必要とする投資家もいます。
また、ベンチャー企業のCEO等の経営陣と投資家側の経営陣との面談が必須の会社もあります。
つまり、投資家側が投資を実行するまでにどのような手続きが必要なのか、DDがスムーズに進んだ場合その手続きのタイミングはいつくらいなのか、をCFOが把握し、スケジュール管理をする必要があります。
投資家側に資料提出をして、質問に答えているだけではDDは終わりません。
しっかり着金日を明示し、それに間に合うよう各社のDDを進めさせるというのも、CFOの大きな役割になります。
投資契約/株主間契約の締結
投資家側のDDが進み、もしくは投資委員会が終了し、投資家側が出資に前向きになった段階で、投資契約と株主間契約の交渉を行います。
投資契約と株主間契約が1つになっているケースもありますが、近年では各々別に締結するケースが多いです。
投資契約とは文字通り、投資家側が投資を実行するための契約です。その為内容についてはあまり大差がなく、ベンチャー企業が発行する株式の種類/株価/株式数/出資金額、その割当先、出資金の払込口座、払込日、ベンチャー企業側の表明保証(提出した資料に偽りはない等ということについての保証)、資金使途等が記載されます。
株式種類の内容以外、あまり交渉することがない契約書になります。
一方、株主間契約は交渉する必要があります。以下、株主間契約において定められる主な項目、その内容、その理由について記載します。
項目 | 内容 | 理由など |
---|---|---|
上場(EXIT)努力義務 | いつまでに上場(ないしはEXIT)するのかを決める | ファンドには満期があるため |
取締役または(かつ)オブザーバーの指名権 | 取締役会や社内の重要会議に参加する | ベンチャー企業へのガバナンス強化のため |
重要事項に係る事前の承諾事項 | 経営に影響を及ぼす事項について、「事前」にVCの許可を必要とする | ベンチャー企業へのガバナンス強化のため |
重要事項に係る報告 | 経営に影響を及ぼす事項について、発生が予見される場合や発生した場合、直ちにVCに報告する | ベンチャー企業へのガバナンス強化のため |
継続的情報開示 | 決算書や試算表、税務申告書、予実管理表等をVCに継続的(月一回等)に開示する | ベンチャー企業へのガバナンス強化のため(株式の良い売り時を模索するため、という理由の時もある) |
アームズレングスルール | 関連当事者との取引は独立の第三者との取引と同条件とする | ベンチャー企業へのガバナンス強化のため 投資先の利益を経営陣が関与する他の会社に付け替えられないようにするため |
コンプライアンス | 法令定款の遵守、反社会的勢力等との取引禁止 | ベンチャー企業へのガバナンス強化のため(ベンチャー企業が反社会的勢力となった場合、VCが保有する株式が売れなくなってしまう) |
投資者の株式等引受権 | VCの持株比率が維持できるような権利を付与する | ダウンサイドリスクを回避するため(ダイリューションを防ぎ、当初想定したリターンを確保するため) |
経営株主の職務専念義務 | 経営株主の他の会社の取締役就任制限、辞任制限、辞任した場合の競業避止義務等 | 投資先企業の機密情報が他社に漏れないようにし、投資先企業の経営に負の影響を与えないようにするため |
経営株主保有株式の譲渡制限 | VCとの契約が終了するまでは、経営株主が保有する株式の譲渡が制限される | 経営株主が株式を売って、会社の経営から逃げるのを防ぐため |
経営株主の譲渡に係る先買権及び共同売却権 | VCが経営株主が保有する株式を買うことができる権利、もしくはVCも経営株主と同時に売却する権利 | 経営株主がVCが好まない相手に株式を売ることを防ぐため 経営株主のEXITにVCも乗れるようにするため |
損害賠償 | 契約違反時にVCが損害賠償請求できる権利 | VCに提出する資料や情報が不正確/不十分であることを防ぐ 契約違反を犯してはならないという意思付けをさせる目的 |
経営株主及び発行会社による買取義務、斡旋義務 | 上場努力義務期日を超過してしまった場合、上場できるのにしなかったり、契約違反等があった場合に買取義務が課される | VCのEXIT機会を確保するため |
買取価額 | 一定の目線はあるものの、基本的には協議となる | 目線としてはVCの投資価額、直近の取引事例等があるが、基本的には協議となる。ただし、真面目に経営しているにも関わらず上場努力義務期日を過ぎてしまった場合は、最初から協議された価額となるケースが多い |
タグアロング(Tag Along right:売却参加権) | 特定の株主が株式を売却する時他の株主も同条件で買手に売却する権利 | VCのEXIT機会を確保するため |
ドラッグアロング(Drag Along right:強制売却権) | 大株主の株式売却に際して、他の株主も同条件で売却をしなければならない義務 | M&AでのEXIT機会を逃さないようにするため |
契約手続/入金確認
投資者側のDDが終了し、投資契約/株主間契約の内容についても合意すると、いよいよ入金手続きへと進みます。
ここで気を付けなければならないのが、投資者側がベンチャー企業へ払い込むにあたり必要とする書類一覧の確認です。
投資契約/株主間契約については、各社の捺印済み書類が必要なケースが多いです。
製本は各社で行う前提で、サイナー部分のみで対応するケースもありますが、書類のやりとり(郵送等)にかかる時間も考慮する必要があります。
ベンチャー企業と投資者達が距離的に近ければ書類を担当者が運んだり、バイク便で運んだりしてそれほど時間がかからないケースが多いですが、少し離れている場合は郵送で対応します。
その為全ての捺印を集めるのに数日かかることも想定する必要があります。こちらもスケジュール管理する必要があります。
また、投資契約書や株主間契約書が揃っただけでは投資手続きに入れない投資者も多くいます。
他に必要になる資料としては、取締役会議事録、株主総会議事録、投資受入れ前の登記簿、投資受入れ前の株主名簿(原本証明付き)、変更後の定款(原本証明付き)、会社の印鑑証明、代表者(CEO)の印鑑証明等があります。
投資契約書にその内容が記載されることもありますが、記載されておらずかつ投資者側の社内手続きで必要とする書類もありますので、必ず事前に確認しておいた方が良いと思います。
取締役会の日付、株主総会の日付もスケジュール管理する必要がでてきます。
ベンチャー企業のCFOに向いている人材とは
「CFOの業務とは」にも記載したとおり、ベンチャー企業のCFOは多くの業務をこなす必要があります。
もちろんそれらは一人ではできないので、チームを組みそのマネジメントもしていく必要があります。
ベンチャー企業のCFOで最も期待されている業務は、資金調達です。
過去実績の少ないベンチャー企業の場合、銀行からの借り入れのような、間接金融での資金調達は非常に難しいと思います。
その為、直接金融による資金調達を選択することになります。
「直接金融で資金調達を成功させるまでにCFOが実施すべきこと」に記載した資料の作成、投資家側との交渉、そのスケジュール管理等が必要になってきます。
このような事を踏まえると、ベンチャー企業のCFOに向いている人材とは、事業計画の策定を行う為に会計の知識は必要ですし、種類株式の内容について投資家側と交渉するために会社法の知識も必要になります。
公認会計士だとこの2つの知識を備えていると言えますが、この2つの知識だけでは不十分です。
資本政策の策定、株主間契約の落としどころ、DDのポイントを理解しそのスケジュール管理等知識だけではなく経験が必要となるポイントも多く存在します。
このような資金調達業務をこなしながら、他の業務も行うというフレキシブルさ、当然一人ではすべてをこなせないので、チーム組成及びそのマネジメントをする能力も必要になってきます。
その為、会計や会社法の知識があり、人をまとめる能力/人望があり、社内に顔が効くもしくはどの人とも親しくなれるような人材が、ベンチャー企業のCFOに向いているのではないかと考えられます。
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